001 プロローグ

俺の名はカガミ・キョウヤ。
 うら若き社会人だ。

 平日の夜、自宅で持ち帰った仕事をしている途中寝てしまい、目が覚めると巨大な図書館の中に居た。寝落ちした時と同じスーツ姿で机にうつ伏せていたが、周りの景色は一変していた。

「ここは…?」

 ひとちて、辺りを見回す。

 図書館だという事は何となく分かるが、人の気配が全く無い。加えて置いてある本も、中世に作られたような分厚い表紙に羊皮紙で出来ていた。草製紙パピルスの本まである。書かれている文字は英字を崩し象形文字を足して二で割った様なものだ。

 図書館の規模や内装、蔵書の文字などから、ここは日本ではないのではないか、と思い始める。取り敢えず、ここから出てみようと出口らしき扉を見つけたが、どうやっても開ける事が出来ない。ちらりと不安がよぎり始める。

「どうなっているんだ…?」

 首を締め付けるネクタイを緩め、仕方無しに出口とは逆方向の図書館の奥へ奥へと歩を進める。最奥と思われる部屋へ辿り着くと、そこは開けた大きな空間になっていた。ぼんやりと青白く床が光っている。部屋の真ん中には人より一回り程大きい、巨大な紫色の炎が浮いていた。

 『よくぞここ迄来た…。我の結界を破れる者を待っていたぞ…。』

「?」

 頭にハテナが浮かぶ。話しかけてきたのがその巨大な炎だと気づくまで数瞬かかる。

「火、火が喋った!?」

 驚きで声が裏返りそうになる。

 『私は太古に生きた魔神だ…。もはや肉体は無い。我の魔力を継ぐ資質のある者をずっと待っていたのだ。』

「いや、俺は…」

 俺は狼狽えながらも、自分が日本から来た事、気づいたらここに居た事を簡潔に伝えた。

 それに対し、魔神はこの世界の事を説明してくれた。どうやらここは別次元の異世界で、こちらには日本という国は無いらしい。そしてこの建物は魔神が創った物で、厳重な結界を張りそれを破ってこれる自分の後継者に成り得る者を長年待っていたという。

 『我はもはや生きる事にいてしまった。だが、我の魔力は後世に残したいのだ。…人間、もらってくれるか?我と貴様の魂の質は似ている。この館には魂が同質の者しか破れぬ結界を張っていたのだ。故に貴様にしか我の魔力は継ぐ事は出来ぬ。』

 俺は少しだけ逡巡し、首を縦に振った。普通ならいきなりこんな事を言われて警戒すべきだろうが、魔神が存在するような世界で何の力も持たない俺は、遅かれ早かれのたれ死ぬだろう。なら、ここで賭けに出るのも悪くない。

「分かりました。貴方の力、俺に継がせて下さい。」

 『恩に着る…。では、我の魔力を授けよう。』

 魔神の魂が一際大きく光り、紫の炎が俺の身体に入り込み同化する。物凄い熱量が身体の内側を駆け巡り、暴れる。

「うあああああ!」

 まるで全身が燃える様だ。息も出来ない。その苦しみが治まる迄しばらく時間がかかった。

「はぁっ!はぁっ!」

 紫の炎が全て俺の中に収まった。それと同時に体内に違和感を覚える。

「な…なんだ…?」

 鼓動が早い。あたかも身体の内側から無限にエネルギーが生産されている様だ。まるで自分が万能の力を手に入れた様な、圧倒的な自信が溢れてくる。と、頭の中に魔神の声が響いてきた。

 『貴様には我の魔力を全て与えた。我の能力は無尽蔵の魔力と、その魔力をありとあらゆる事象に変換する究極の創造魔法だ。端的に言うと【思った事を現実化出来る能力】だ。…つまり貴様は全知全能の力を手に入れたのだ。』

「なんだって…?」

 『どう使うかは貴様次第だ…。ではさらばだ…。』

 そう言って、魔神の気配は消えた。俺に力を与え、自分は消滅したのだろうか…長い月日の終止符を今打ったのか…定かではない。

 先程言われた事を頭の中で整理する。…魔力を何にでも変換出来て、その魔力が無限?つまり【思った事を現実化出来る能力】??それが本当なら途轍もなく凄い事だ。不可能な事は何もない。

 確かにこれが事実なら魔神が生きる事に飽きたと言うのも頷ける。全てが思うままになるのであれば、いずれはそんな気持ちにもなるだろう。もはや神になったにも等しいのだから。

 だが俺はこれ迄ずっと平凡に生きてきた庶民だ。『生きる事に飽きる』なんて大それた台詞を魔神の様に言える様になるまで、やりたい事はいくらでもある。

 俺は決めた。

 運命がくれたこの好機に感謝し、自分の思う様にこの異世界で生きてみよう。

 何から始めようか…。俺はしばらく考えて、まずは知識を入れる事にする。この図書館にある本を片っ端から読み込み、異世界の事を理解していこう。全知全能の力を使えば図書館の本を一冊一冊開かずとも内容を理解する事も出来そうではあるが、それでは少し味気が無い。

 俺は早速、魔神から受継いだ力でこの世界の言語を理解出来る様にし、そして身体の視力と運動能力、記憶力の性能を上げ、超高速で図書館の本を読破していった。余裕の出来た今となっては、英語と象形文字を足した様なファンタジックなこの世界の文字は見るだけでもワクワクした。

 そして様々な魔法書の中から1つの禁呪へと辿り着く。

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